Subscribe via RSS Feed

神様と共に歩んだ父祖たち その3:ヤコブ⑥

<成和学生会報2013年8月号掲載>

 

母リベカの死

ヤコブの苦難に満ちた人生も前半の節目を迎えました。ヤコブが再びベテルに着いた時、母リベカの乳母デボラが死んだと聖書は告げます。21年前にハランに送り出した母リベカのことがどこにも記されていないのは、母がすでに亡くなっていることを示しています。

リベカは、ヤコブが旅立って以後、心の休まる日はなかったでしょう。ヤコブが妻子と財産を得て無事に帰ってくることができるか、いつ神の願いを果たして帰ってくるのか、案ずるばかりの毎日だったに違いありません。

また、エサウの妻となった異教の女たちの生活を身近に見ていると、心が痛く傷つくばかりでした。神様から頂いた一言「兄は弟に仕えるであろう」(創世記25・23)を心に刻み成就を信じていたとしても、その日を生きて迎えることができるかは彼女の知るところではありませんでした。

ヤコブが故郷に戻った時、母は既にこの世には無く、母の面影をたどれるのは、その乳母デボラだけでした。そのデボラもヤコブを一目見て、間もなく亡くなったのです。み言の成就のために祈りと協助を惜しまなかった母の役割は、ようやく終わりを迎えたのです。ヤコブが勝利者として帰還したからです。

 

「悲しみの子」から「栄光を現わす息子」へ

ヤコブはベテルで神に帰還の報告をして感謝を捧げた後、父イサクのもとに向かって出発しました。現在のエルサレムの南、エフラタ付近で妻ラケルは産気づき、ヤコブのために末の男の子を産みました。

しかし、哀なしいかな難産のためラケルは力尽き、ここで臨終を迎えました。魂が離れようとする時、生まれてきた子を“ベン・オニ(ベノニ)”と呼びました。“これはわが苦しみの息子”だというのです。ハランではヤコブのためにヨセフ一人しか産むことができなかったラケル。苦難の生活を終え、やっともう一人の男の子をもうけることができた喜びもつかの間。この子は、間もなく母親を失い、母の愛を充分に受けることができない。そんな切ない思いから“悲しみの子だ”と呼ぶのです。

ところが、ヤコブはこれを制して、わが子に“ベニヤミン”と名づけます。ラケルの母としての思いは充分知りながらも、父親のヤコブには“悲しみの子”ではかったのです。12人の息子が揃うことではじめて民族の基盤が整い、国家に発展する土台が据えられたのです。ヤコブはこの子を“ベニヤミン=右手の子、幸いの子”と呼び、運命を切り開き、勝利を成し、親に栄光を帰する子となると信じたのです。

“ベン・オニ(ベノニ)”から“ベニヤミン”への変容は、それ以後のヤコブの息子たち、その子孫であるイスラエル民族の行く末を暗示しているかのようです。

“悲しみの子”として生まれたイスラエル民族であったとしても、いつまでも悲しみの子で有り続けたわけではなく、父の心にかなって発展を遂げることもありました。

ヤコブと共にエジプトに下ったイスラエル民族は、400年の苦役を経て、モーセに導かれて出立し、40年の荒野の流浪生活の後、故郷に帰還します。彼らの歩みはいつも浮き沈みの連続です。祝福を与えると神様は言われるのに、続いてくるのは苦労ばかり。そうかと思うと、今度は突然の驚くべき恵みが与えられるという具合です。

イスラエル民族がカナン入国を果たして、近隣の諸部族と闘い、ようやく統一王国となる時、初代の王に立てられたのは、ベニヤミン族のキシの息子サウルでした。若くて麗しいサウルは、民の期待を一身に受けて、世に栄光を現わしました。その後も、国家の滅亡と捕囚、その後の帰還を民族はこぞって体験します。

彼らがいかに苦難の道を歩んだとしても、神は必ず時を経てイスラエルを復興させ、その群れに平和の王を遣わす計画だけは諦めることはありませんでした。

 

妻ラケルの埋葬と父イサクの死

さて、ヤコブは妻ラケルを“ベツレヘムの道”に葬りました。

 「ヤコブはその墓に柱を立てた。これはラケルの墓の柱であって、今日に至っている。」(創世記35・20)
残念ながら、ラケルは先祖たちと共に葬られてはいません。彼女の墓は、現在もベツレヘム北部、エルサレムから下って数キロのパレスチナ領土内にあります。ラケルを民族の母と慕うユダヤ人たちの墓参は今なお絶えることがありません。

愛する母の死、最愛の妻の死を経験したヤコブの人生は父イサクの死で大きな節目を迎えます。ヤコブは父と再会し、その最後を看取ることができました。「イサクは年老い、日満ちて息絶え、死んで、その民に加えられた。」(創世記35・29)180歳の長寿を全うし、安らかな死であったことでしょう。

父を葬ったのは、エサウとヤコブ。長年の恨みを解いて和解した兄弟は、そろってその手で、父親を葬ることができました。

Category: 誌面説教